相続(リサーチカフェ)

相続対策が重要です!

仲の良かったはずの子どもたちが、遺産を巡って揉める事例が年々増加しており、平成26年に家庭裁判所に遺産分割調停が申立てられた件数は13,101件ありました(司法統計年報H26第2表)。残された相続人達が揉めることがないように、生前から対策を講じておきたいものです。一方、今までは相続税を課税された人は、被相続人ベースで54,421人で死亡者数の4.2%程度にすぎませんでした(国税庁統計年報相続税H25)。しかし、平成27年1月1日以降の相続からは相続税法の基礎控除が従来の60%になり、相続税を課税される人の増加が見込まれています。

このように、相続問題は民法上のいわゆる「相続揉め対策」と相続税法上の「相続税節税対策」がありますが、一方を満足させるために講じた対策が他方では大きな問題を引き起こすこともあります。相続対策では、常に「民法上の効果」と「相続税法上の効果」を見比べながら対策を講じる必要があります。 主な相続対策としては、①生前贈与、②生前売買、③保険、④遺言、⑤信託がありますが、それぞれに一長一短があり、うまく組み合わせて対策を立てる必要があります。これらの対策は時間がかかるために、早目に計画を立て、対策をスタートすることが肝要です。

相続対策は遺留分に気を付けて

配偶者、子(とその代襲相続人)、直系尊属には「守られるべき最低限度の相続分」である「遺留分」という制度があります。これは、遺言で遺贈された財産、生前贈与財産、死因贈与財産について、遺留分を侵害された相続人から侵害している人・法人に対して減殺請求することで、侵害された財産が戻ってくる制度です。

例えば、被相続人が遺言で相続人の一人である可愛いAさんにかなりの財産を遺贈し、この結果、他の相続人であるBさん、Cさんの遺留分を侵害した場合です。Bさん、Cさんが「Aさんが沢山相続してもかまわない。」と考えれば遺留分の問題はありませんが、「それは不公平だ!」と考えれば、Aさんに対し遺留分の減殺請求をすることができます。この権利は「物権的請求権」と言われる大変強い権利です。

その結果、AさんとBさん・Cさんが犬猿の仲になるうえに、せっかくの遺贈が取り戻されることにもなります。相続人たちの仲たがいになるような対策にならないように気を付けましょう。

なお、法定相続分と遺留分の関係は以下の表のとおりです。

相続税の計算方法

相続税の計算に当たっては、計算の仕方と評価の二つに注意が必要です。
ここでは、計算の仕方の概略をご説明します。

①まず課税価格を求めます。
(図をクリックすると拡大します)

②各人の課税価格の合計額から基礎控除額を控除する。
 平成27年1月1日以降の死亡の場合の基礎控除額は以下になります。
 「3000万円+@600万円×法定相続人数」

③以下の順に計算して、各人ごとの相続税額を求めます。
(図をクリックすると拡大します)

相続対策・相続税節税対策と保険の効果

死亡保険金の効果は民法と相続税法では全く異なります。
民法では、死亡保険金は「受取人の固有の権利」です(最判H40.2.2)。従って、相続財産ではありません。

更に、死亡保険金を遺産分割協議に際して持戻すのか否かについては、「原則として持戻さないものの、他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法§903の趣旨に照らして到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合は持戻します(最判H16.10.29)。」その後、東京高判H17.10.27や名古屋高判H18.3.27で実際に死亡保険金の持戻しが認められました。従って、安易な「死亡保険金分を相続財産から離脱させて、特定の相続人に取得させる相続対策」には注意が必要です。

一方、相続税法では、死亡保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税価格の合計額に加えられます(相続税法§3①一)。そして、この死亡保険金のうち、@500万円×法定相続人数が非課税財産として課税対象から控除されます(相続税法§12①五)。もっとも、税制大綱でこの廃止減額が検討されたこともあるので、安易な「保険を活用した相続税節税対策」には注意が必要です。

相続対策・相続税対策と生前贈与

相続対策・相続税節税対策として、生前贈与が議論されることが多いでしょう。しかし、民法の視点と相続税法の視点の双方から相続に係る対策を吟味することが必要です。

まず、相続税法の視点からは、①贈与税の基礎控除110万円の活用や②配偶者への居住用不動産等の贈与の配偶者控除、③直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税措置、④教育資金の一括贈与の非課税措置、⑤相続時精算課税制度の活用等が節税対策として挙げられ、それぞれに有効な対策です。

しかし、民法の視点からこれを見れば、これら贈与等が相続人に対するものであるなら、当然持戻しや遺留分減殺請求の対象になるため、財産移転は意味をなさなかったことになります。従って、相続税の節税対策を検討する際には、必ず民法の視点からのチェックを行う必要があります。

一方、民法の視点から生前贈与の持戻しを考える場合、受贈者は遺産分割に際して受贈財産を計算上は持戻さねばなりませんが、遺留分を侵害していない限り、実際に他の共同相続人に受贈財産を戻す必要がないため(民§903②)、法定相続分と遺留分の間の価額までの生前贈与は有効な手段と言えるでしょう。なお、「持戻し免除」の意思表示の有無で揉めることがあるので、贈与者にその意思があれば文書等で明確にしておくとよいでしょう。

最高裁判所H28.12.19大法廷決定・・・62年ぶりに遺産分割での可分債権問題が解決!

実に長かったですが、ようやく国民感情と最高裁の考えが一致しました。

可分債権問題とは、読んで字のごとく・・・「分けることが可能な債権」=金銭債権を「相続に際してどのように分割するのか?」という問題で、①預貯金のような金銭債権、②貸付金や損害賠償請求権(金銭債権となったもの)のような金銭債権、(③借入金のような金銭債務)に分けて考える必要があります。

遺産分割に当たっての可分債権問題は、最一小判S29.4.8が「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解する」と判示し、預金は遺産分割の対象から外れるとされていました。

しかし、国民感情では、遺産分割に際し「預貯金が分割対象になる」のは当然ですし、金融機関も、「遺産分割協議書がなければ払戻しに応じません。」との対応で、国民感情と最高裁判所の考え方が正反対の時代が長らく続きました。

このため、下級審で「相続人全員の合意により、預金債権は不可分債権に転化する」(東京地判H9.10.2、東京高決H14.2.15)と判示して「相続人全員が合意したのだから預貯金も含めて分割できる」ように対応したり、「旧定額郵便貯金債権は旧郵便貯金法§7①三で分割払戻できないと決められているから当然分割はできない」(最二小判22.10.8)と部分的な手直しが行われてきましたが、遂に最高裁H28.12.19大法廷決定で国民感情と一致するように最高裁の考え方が改められました。 ただし、これは①預貯金(今回の最高裁大法廷決定は当該事件での財産である普通預金債権、通常貯金債権、定期貯金債権についての判断ですが、当然、預貯金債権全般に及ぶと考えられます。)についてであって、②③は該当しません。

②は法制審議会民法(相続関係)部会で検討項目にはなっていますが、旧来のままの方向です。③は「金銭債務を相続人が勝手に分割したら、債務逃れが起こって債権者が困る」という側面もあり、預貯金のようにはいきません(最二小判S34.6.19)。現在は、(1)相続人が債務を適宜分割しても、債権者は拘束されない。(2)免責的債務引受等により相続人の一人が残債務を引き受けることを決めた後、債権者がこれを承諾する手法が用いられています。アパートローンが残存している賃貸アパートの相続の際によく行われています。