成年後見(リサーチカフェ)

認知症対策と任意後見制度の活用

1.認知症の種類と特徴

認知症とは、様々な原因で脳の神経細胞がダメージを受けることにより判断能力が低下する病状です。この認知症の中で特に多いのは以下の4種類です。

①アルツハイマー型認知症
アミロイドβ蛋白が脳に蓄積して神経細胞に障害が発生することで記憶障害や見当識障害(時間や場所が分からなくなる)が起こり、猜疑心が強まったり徘徊、興奮や暴力等の周辺症状が現れたりする。認知症の半分以上がアルツハイマー型。

②脳血管性認知症
脳出血、脳梗塞等により感情のコントロール減退や麻痺が発生する。

③レビー小体型認知症
脳神経細胞内にレビー小体が発生することで、うつ症状や体のこわばり、睡眠時の異常行動等が生じるほか、幻視が特徴。

④前頭側頭型認知症(ピック病)
脳の前頭葉、側頭葉が変性することにより他人への配慮が失われる、万引きする等の症状が起こる。若年層にも現れ、記憶障害は比較的軽度。

2.認知症の診断と治療

認知症は、問診、長谷川式スケールやミニメンタルステート(MMS)テスト、脳のCTやSPECT(血流検査)により総合的に判断します。また、治療薬としては、アリセプト、レミニール、メマリー、イクセロンパッチ等が用いられますが、まだ機能低下の進行を抑制する程度の効果です。ただし、MCI(初期症状)での治療開始の場合は期待が持てます。

3.認知症の予防と相談先

WHOは以下の対策を呼びかけています。

①生活習慣の改善(運動、禁煙、健康な食生活、節酒)

②心身の管理(体重、高血圧、高血糖、脂質異常、うつ病、聴力)

③その他(知的、社会的活動)
聴力の低下により発語が減って自分の殻に閉じこもりがちになることで、社会的活動の減少やうつ症状が進む点には注意が必要ですね。

家族がまず相談する際は、地域包括支援センターや市町村の福祉関係窓口が適切です。また、(公社)日本老年精神医学会HP(http://www.rounen.org/)では専門医や認知症を診断できる病院等を検索できるので、早めの受診が重要です。

4.任意後見制度の活用による対策

任意後見制度とは、本人に判断力があるうちに、「判断力が低下した際に、自分に代わって預金管理、不動産管理~役所や病院・施設への手続き等をしてくれる代理人」をあらかじめ決めておく制度で、本人と任意後見受任者が公正証書で「任意後見契約」を締結しておきます。そして、判断力が低下した時点で任意後見受任者や家族が家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立を行い、その選任後は任意後見人が行う後見処理を任意後見監督人が監督していきます。

また、法定後見制度では、申立時に指定した「後見人候補者」を家庭裁判所が選任しない場合があるほか、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要になりますが、任意後見制度はこれらの点で使い勝手がよいとされています。ただし、任意後見人は本人の行った行為の取消権がないので、詐欺被害には注意が必要です。

成年後見制度とは?

成年後見制度は判断能力の十分でない人(成年)に対し、本人の権利を守る援助者を選任することによって法律的に本人を支援する制度です。判断能力が不十分になってから主に家族等から家庭裁判所に申し立てる法定後見制度と、本人が健常なうちに自ら後見人となる人を定めてその人と公正証書で契約を締結しておく任意後見制度に分かれています。

法定後見制度は更に判断能力が無い人のための後見類型、判断能力が著しく不十分な人のための保佐類型、判断能力が不十分であるが自ら判断することも一部可能な人のための補助類型に分かれており、それぞれ援助者として家庭裁判所で選任審判される後見人、保佐人、補助人の権限が異なっています。 この制度利用の申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族、市町村長等が本人の住所地を管轄する家庭裁判所に行い、家庭裁判所が内容を検討のうえ審判します。その後は、後見人等が本人のために財産管理、身上監護事務を行っていき、家庭裁判所が定期的に報告を求めて事務遂行をチェックしていきます。

任意後見制度は本人に判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分な状態になった場合に備えてあらかじめ任意後見人に一定の法律行為に対する代理権を与える旨の契約を締結しておく制度であり、公正証書で作成する必要があります。 この契約は、本人の判断能力が不十分になり任意後見人候補者等が家庭裁判所に申し立てて任意後見監督人が選任されることで本契約が発効する停止条件付契約です。任意後見監督人選任後は、任意後見人が本人のために財産管理、身上監護事務を行っていき、任意後見監督人が定期的に報告を求めて事務遂行をチェックしていきます。

日常生活自立支援事業とは?

社会福祉法§2③規定の第2種社会福祉事業の一つとして社会福祉協議会が中心となって、福祉サービスの利用援助等と共に各種契約行為や行政手続き、預金の預入・払戻手続き等を代理行為として行なっています。

本制度は判断能力が不十分であるが本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる人が対象であり、成年後見制度利用に至らない程度の判断能力の人が活用していますが、平成27年度末の利用者数は46,687人に留まっています。本制度は自己の契約行為として行うので成年後見制度に比べて比較的簡易に開始できる点や支援内容が法律行為のみならず福祉サービス利用援助や日常的金銭管理も行う点が優れていますが、判断能力の減退が進行すれば成年後見制度に移行せざるを得ず、最終的な手段にならない場合もあります。

成年後見制度と信託制度の相違点

成年後見制度と信託制度は、いずれも高齢者の財産管理のための優れた制度ですが、以下のような相違点があります。

①開始時期
成年後見制度は被後見人が判断能力をなくすことによって開始されるため、判断能力の減退から後見開始審判までにタイムラグを生ずる問題があります。これを防ぐ手段としては任意後見制度があります。
一方、信託制度では、始期は当事者の契約等により決められるのでフレキシブルな対応が可能になりますが、意思能力を失ってから新たに信託契約を行うことはできません。

②終了
成年後見制度は被後見人の死亡によって終了する、「本人のための制度」である為、自己の死亡後にも配偶者や障害のある子に給付していくといった配偶者亡き後問題、親亡き後問題の解決には適していません。
一方、信託制度は契約によって、委託者死亡後も受益者への給付が可能ですし、遺言による信託設定では委託者の死亡によって受益者への給付が開始されます。自分の死後の対応を考える場合は信託が必要です。

③カバーされるエリア
成年後見制度は被後見人の「財産管理」のみならず被後見人の施設入居やヘルパー派遣契約等の「身上監護」事務も行います。
一方、信託制度は財産管理のみに留まります。

④監督制度
成年後見制度は法定後見では家庭裁判所が、任意後見では後見監督人が後見事務を監督して不正行為を防止する仕組みですが、信託制度では外部の監督機関がなく、受益者が強力な監督権能で受託者を監督する仕組みです。しかし、判断能力が減退した高齢者等の場合、自ら受託者を監督することが困難な場合があります。

⑤担い手へのバックアップ
成年後見制度では、家庭裁判所に後見事務に関する様々な相談ができます。しかし、信託制度ではこのような相談機関がまだ未成熟です。